南極半島域におけるペンギン2種の採餌戦略に関する研究

南極半島域には、近縁な2種のペンギン類、ヒゲペンギン( Pygoscelis antarctica )ジ ェンツーペンギン( P. papua )が同所的に生息している。両種は似た体型を持ち、遊泳速度 や体重あたりの基礎代謝速度に大きな違いがないこと、共にナンキョクオキアミ (Euphausia superba)を主食にすることなど、生理的・生態的に多くの共通点を持つことが わかっている。このような2種が共存している理由として、両種間には採餌場所・潜水行動 など採餌生態上の違いがあり、異なる生態的地位を占めているのではないかと予想される。 また過去30年にわたる南極半島域のペンギン種ごとの個体...

Full description

Bibliographic Details
Main Authors: 國分 亙彦, コクブン ノブオ, Nobuo KOKUBUN
Format: Thesis
Language:Japanese
Published: 2009
Subjects:
Online Access:https://ir.soken.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1431
http://id.nii.ac.jp/1013/00001427/
Description
Summary:南極半島域には、近縁な2種のペンギン類、ヒゲペンギン( Pygoscelis antarctica )ジ ェンツーペンギン( P. papua )が同所的に生息している。両種は似た体型を持ち、遊泳速度 や体重あたりの基礎代謝速度に大きな違いがないこと、共にナンキョクオキアミ (Euphausia superba)を主食にすることなど、生理的・生態的に多くの共通点を持つことが わかっている。このような2種が共存している理由として、両種間には採餌場所・潜水行動 など採餌生態上の違いがあり、異なる生態的地位を占めているのではないかと予想される。 また過去30年にわたる南極半島域のペンギン種ごとの個体数変化データをみると、ヒゲペ ンギンが減少傾向にある一方、ジェンツーペンギンは増加または安定傾向にあるという違 いが見られる。このような個体数変化傾向の違いは、種による生態的地位の違いを反映し ている可能性がある。ペンギン類の採餌場所や潜水行動は、近年開発された動物装着型の GPS-深度ロガーを用いて3次元的に微細な空間スケール(10-100m)で計測することが可 能である。そこで本研究では、南極半島域で同所的に生息するヒゲペンギンとジェンツー ペンギンについて、両種の採餌努力が狭い範囲に集中する育雛期に、GPS-深度ロガーを用 いて採餌場所や潜水行動を詳細に計測し、両種間で採餌戦略にどのような違いがあるのか 詳しく調べることを目的とする。 2006年12月から2007年1月にかけて、南極半島沖のキングジョージ島・バートン半島 にあるヒゲペンギン、ジェンツーペンギンのコロニーで、生態調査を行った。そして育雛 中のヒゲペンギン18個体、ジェンツーペンギン14個体から採餌トリップの移動軌跡・潜 水データを得た。またこの他に、親鳥が雛に持ち帰った胃内容物のサンプリングを行った。 GPSデータから、水平的な採餌場所を調べると、両種は似た行動範囲内で採餌していた (平均トリップ距離: ヒゲペンギン16. 4±10. 1 km, ジェンツーペンギン12. 4±8. 7 km)。しかしl km黙下の空間スケールで見ると潜水の集中していたエリアはこそれぞれ ヒゲペンギンが沿岸(海岸から15 km以内)から沖合(15 km以上)にかけての水深の深い海 域、ジェンツーペンギンは沿岸の浅い海域というように分かれる傾向があった。2種の潜 水行動をみると、潜水深度に違いは見られなかったものの、潜水中の潜水ボトム滞在時間、 潜水ボトム滞在中の深度の上下した回数、潜水効率といった潜水パラメータはいずれもジ ェンツーバンギンの方が値が大きかった。また海中の表層・中層または底層のいずれを利用 していたか調べると、ヒゲペンギンがほとんど全ての潜水(全潜水の95%で、水深の深い 場所で海の表層・中層へ潜つていた一方、ジェンツーペンギンはしばしば(全潜水の26%) 水深の浅い場所で底層(水深の80%以上の深さの層)へ潜っていた。さらに、両種の主な餌 は共にナンキョクオキアミであったが、ジェンツーペンギンはヒゲペンギンに比べて多く の成熟メスのオキアミを捕食していた。これらの潜水行動や餌の違いは、水平的な採餌場 所の違いと、その場所での潜水の仕方の違いを反映していると考えられる。ここで、この ように両種の採餌場所の利用の仕方が異なる理由として、両種がそれぞれにとって好適な 餌場を異なる方法で利用しているのか、または、どちらかの種が共通のよい餌場を優占的 に利用しているのか、という疑間が生じる。このことを確かめるには、ベンギンが効率よ く餌を獲っている場所を調べ、両種が実際にその場所をどのような頻度で利用したかを調 べる必要がある。 そこで次に、ペンギンの位置データと潜水データを用いて「採餌効率」を計算し、両種 採餌戦略をさらに詳しく解析した。採餌効率は、餌の探索・捕食にかけた時間当たりの 餌の捕食回数として計算した。餌の探索・捕食にかけた時間は、半径500mの円をペンギ ンが通過するのにかかった時間として計算し、餌の捕食回数は、その円の中での潜水の潜 水ボトム滞在中の深度の上下した総数を指標値として用いた。 ペンギンの行動から算出した採餌効率の空間分布を調べたところ、ヒゲペンギンの採餌 効率は、海岸から4km以内の沿岸側と、10km以上離れた沖合側の両方の海域で高かった。 そしてヒゲペンギンはそのような採餌効率の高い海域を両方利用していた。またどちらの 海域でも、水深の深い(>100m海域で主に潜水しており、ヒゲペンギンは沿岸から沖合ま での広い範囲において、表層・中層の採餌効率が高い海域を利用するという採餌戦略を持 っていたと考えられる。一方、ジェンツーペンギンの採餌効率は、海岸から4 km以内の沿 ...