定着氷域におけるアデリーペンギンの採餌・繁殖生態 に関する研究

本研究は南極海洋生態系の高次捕食者であるアデリーペンギン(Pygoscelis adeliae)について、定着氷域での環境変動に対する行動的適応を明らかにすることを目的として、1)採餌・繁殖生態の年・季節変動、2)採餌行動の個体間の相違と繁殖成績との関係の研究をおこなった。 定着氷の分布状態や餌環境の変動とアデリーペンギンの採餌行動との対応を様々な時間スケールで明らかにするため、1995/96-1999/2000の5シーズンに渡り、ペンギンの育雛期にあたる12月から2月にかけて、南極リュツォ・ホルム湾袋浦の繁殖地で調査をおこなった。アデリーペンギンの主要な繁殖域であるロス海や南極半島域では夏期...

Full description

Bibliographic Details
Main Authors: 高橋 晃周, タカハシ アキノリ, Akinori TAKAHASHI
Format: Thesis
Language:Japanese
Published: 2001
Subjects:
Online Access:https://ir.soken.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=814
http://id.nii.ac.jp/1013/00000814/
Description
Summary:本研究は南極海洋生態系の高次捕食者であるアデリーペンギン(Pygoscelis adeliae)について、定着氷域での環境変動に対する行動的適応を明らかにすることを目的として、1)採餌・繁殖生態の年・季節変動、2)採餌行動の個体間の相違と繁殖成績との関係の研究をおこなった。 定着氷の分布状態や餌環境の変動とアデリーペンギンの採餌行動との対応を様々な時間スケールで明らかにするため、1995/96-1999/2000の5シーズンに渡り、ペンギンの育雛期にあたる12月から2月にかけて、南極リュツォ・ホルム湾袋浦の繁殖地で調査をおこなった。アデリーペンギンの主要な繁殖域であるロス海や南極半島域では夏期間に定着氷が流出し繁殖地周辺に開水面が広がるが、本研究の繁殖地はほぼ年間を通じて海氷が存在することが特徴的である。年毎に繁殖地周辺の定着氷の分布状態は異なり、1995/96、1998/99、1999/2000の3年は育雛期を通じて厚い海氷がペンギンの採餌域を覆っていた。1996/97年は所々に薄氷が見られ、1997/98年には育雛期の途中から繁殖地近くの氷がパックアイス化し、1月下旬には定着氷が流出した。また、ペンギンの胃内容物中の餌構成も年によって変化し、定着氷下でのペンギンの餌環境が変動していることを示唆した。1995/96、1996/97、1997/98の3年にはオキアミ類(ナンキョクオキアミ Euphausia superbaとクリスタルオキアミ E.crystallorophias)と魚類が共に胃内容物中に優占し、それぞれ36- 76%、23-63%(湿重比)を占めた。1998/99, 1999/2000年には餌の84.8-99.6%をオキアミ類が占め、魚類は 0.4-3.2%と少なかった。 まず、ペンギンの採餌行動について、1回毎の潜水を解析すると、1995/96年には他の年に比べ、潜水深度は深く、潜水時間は長かった。しかし、潜水時間が長い年には潜水前後の表面滞在時間も長くなったため、一回の潜水サイクルに占める潜水時間の割合には年間差はなかった。親は、長い潜水を少ない頻度で行うか、短い潜水を高い頻度で行うかを年毎に調節したと考えられる。餌と潜水行動の関係を調べるため、オキアミ類・魚類それぞれが胃内容物の湿重の70%以上を占めていた場合、各々の個体をオキアミ類もしくは魚類を捕食した個体とし、これらの個体間で潜水行動を比較した。1995/96年には、同じ年の中でもオキアミ類を捕食した個体の方が魚類を捕食した個体よりも潜水深度が深かった。一方、1996/97年にはオキアミ類と魚類を捕食した個体の間で潜水深度に違いは見られなかった。また、オキアミ類を捕食した個体に限って潜水深度の年変化を調べると、1995/96年で他の年よりも深く潜水していた。餌生物の分布深度の年変化がペンギンの潜水行動に影響したと考えられる。 次に、ペンギンの採餌場所は、定着氷が採餌域を覆った年(1995/96、 1996/97、1998/99、1999/2000年)には、岸沿いや氷山の周りの小さな開水面に限られており、海氷の分布状態がペンギンの採餌場所利用に影響していた。それに加え、これらの年には小さな開水面が夜間に結氷し潜水が妨げられるため、ペンギンの夜間の潜水頻度が低下していた。海氷は、夜間の結氷によって一日の中でのペンギンの採餌可能な時間帯にも影響していたと考えられる。しかし、日中に行われた採餌トリップにおける、採餌場所での潜水時間の割合は海氷が採餌域を覆った年で高かった。このような年には、親は採餌場所が利用可能な昼の時間帯に潜水努力を高くして、夜間の潜水時間の低下を補っていたと考えられる。さらに、採餌トリップと雛のガードとの時間配分を見ると、1995/96、1996/97年には親の採餌トリップ長は長かったが、ガード期からクレイシ期初期の雛のガード時間はトリップ長に比べて短く、親はペアのもう片方が巣に戻る前に採餌トリップを開始させていた。その結果、ガード期からクレイシ期初期の一日あたりのペアの給餌頻度に年変化はなかった。ガード期の親の一回の給餌量にも年変化は見られなかったため、1月中旬までの雛の成長速度の年変化は小さかった。すなわち調査おこなった5年間で海氷状況が年毎に大きく変化したにもかかわらず、親は一回の潜水から採餌トリップと雛のガードのサイクルの変化に至る一連の行動的適応によって、一定の雛への給餌速度を維持していたと考えられる。 ...