グリーンランドNEEM氷床コアおよび南極ドームふじ氷床コアによる、過去1万年間の南北両極のメタン濃度の復元

産業革命期と比較して、大気中のメタン(CH4)濃度は2.5倍に増加した。これは、産業革命期以降の放射強制力の増加分の約2割に相当し、二酸化炭素に次ぐ主要な温室効果ガスとして地球温暖化に貢献している。CH4の放出は自然起源と人為起源の両者からの寄与が大きいが、それらは多岐に渡り複雑に分布するため、起源ごとのCH4放出量の見積もりは誤差が大きい。将来のCH4濃度の変動予測や地球温暖化の理解進展のためには、人為起源・自然起源の各変動を正確に把握する必要がある。 南北両極の氷床コアは大気成分を保存しており、過去のCH4の濃度変動を復元することができる。CH4は、放出源の分布の変化により南北半球間で濃度...

Full description

Bibliographic Details
Main Author: 大藪 郁美
Format: Conference Object
Language:Japanese
Published: 2016
Subjects:
Online Access:https://nipr.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=13575
http://id.nii.ac.jp/1291/00013512/
Description
Summary:産業革命期と比較して、大気中のメタン(CH4)濃度は2.5倍に増加した。これは、産業革命期以降の放射強制力の増加分の約2割に相当し、二酸化炭素に次ぐ主要な温室効果ガスとして地球温暖化に貢献している。CH4の放出は自然起源と人為起源の両者からの寄与が大きいが、それらは多岐に渡り複雑に分布するため、起源ごとのCH4放出量の見積もりは誤差が大きい。将来のCH4濃度の変動予測や地球温暖化の理解進展のためには、人為起源・自然起源の各変動を正確に把握する必要がある。 南北両極の氷床コアは大気成分を保存しており、過去のCH4の濃度変動を復元することができる。CH4は、放出源の分布の変化により南北半球間で濃度差が変化するため、南北両極の氷床コアからCH4濃度を正確に復元し、両者の濃度差を明らかにすることで、放出起源やその寄与度を推定することができる(Nakazawa et al., 1993; Brook et al., 1996; Chappellaz et al., 1997; Mitchell et al., 2013)。 複数の先行研究で完新世(過去約11000年間)のCH4が分析され南北差が算出されているが、完新世全期間のCH4の時間分解能はあらく、数百年スケールの変動はわかっていない。また、オレゴン州立大学による最新のデータは高精度・高時間分解能だが、過去2500年しか遡れない(Mitchell et al., 2013)。そこで本研究は、完新世におけるCH4濃度の南北差を明らかにし、完新世のCH4濃度の変動とその要因を解明することを目的として、グリーンランドと南極氷床コアからCH4濃度を高時間分解能かつ高精度で分析した。 NEEMコアの分析結果には、Brittle zoneを中心に複数の高濃度スパイクが見つかった。過去の大気の情報を反映しないスパイクが現れる原因として、氷中に存在する微生物によるCH4生成や、目には見えない微小クラックに現在の大気が混入した可能性などが考えられる。異常値の可能性が認められた試料は複数回分析して濃度の再現性を検証し、明らかな異常値を取り除いた。20年前のデータ(Brook et al., 1996; Chappellaz et al., 1997)と比べ時間分解能は3〜4倍に上がり、分析精度は約10倍に向上した。また、最新の研究結果(Mitchel et al, 2013)とは数十年スケールの変動がよく一致しており、今回得られたNEEMコアの結果は信頼性の高いデータであると考えられる。周期解析の結果、完新世のCH4濃度には数百年スケールの周期が有意に認められることがわかった。このような変動は従来のデータでは検出不可能であり、本研究で分析精度と時間分解能を大幅に上げたことによる成果である。ドームふじのデータを合わせた初期結果では、完新世(過去1万年)前半より後半の方が南北の濃度差が小さい。これは先行研究とは異なる結果であり、最近の気候・生態系モデルの推定を支持するものである。 Polar Meteorology and Glaciology Group seminar / 気水圏コロキウム 日時:11月2日(水)10:00-10:50 場所:C301(3階セミナー室)