オーストラリア起源ラドンの南極昭和基地への大気輸送と そのメカニズム

南極域への大気・物質の輸送に関わる研究観測として,第46次南極観測隊において,大気のトレーサー物質であるラドン濃度,及びトロン濃度の地上観測が昭和基地で行われた.この論文では観測結果の概要をまとめ,遠方起源の高濃度ラドン大気の輸送について議論した.半減期3.8日のラドンと半減期55秒のトロンの地上付近の鉛直分布の測定値を用いて,遠方起源の可能性を持つ大気を抽出することを試みた.その結果を全球ラドン移流拡散モデルと比較し,ラドンの起源地域を推定することができた.海洋域及び南アメリカ大陸起源と推定されるケースが多い中で,オーストラリア起源と推定される,ラドン濃度の比較的高い事例が見いだされた.この...

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Bibliographic Details
Main Authors: 平沢 尚彦, 田阪 茂樹, 田口 彰一, Naohiko Hirasawa, Shigeki Tasaka, Shoichi Taguchi
Format: Report
Language:Japanese
Published: 情報・システム研究機構国立極地研究所 2010
Subjects:
Online Access:https://nipr.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=9578
http://id.nii.ac.jp/1291/00009578/
https://nipr.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=9578&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1
Description
Summary:南極域への大気・物質の輸送に関わる研究観測として,第46次南極観測隊において,大気のトレーサー物質であるラドン濃度,及びトロン濃度の地上観測が昭和基地で行われた.この論文では観測結果の概要をまとめ,遠方起源の高濃度ラドン大気の輸送について議論した.半減期3.8日のラドンと半減期55秒のトロンの地上付近の鉛直分布の測定値を用いて,遠方起源の可能性を持つ大気を抽出することを試みた.その結果を全球ラドン移流拡散モデルと比較し,ラドンの起源地域を推定することができた.海洋域及び南アメリカ大陸起源と推定されるケースが多い中で,オーストラリア起源と推定される,ラドン濃度の比較的高い事例が見いだされた.このオーストラリア起源の高濃度ラドン大気は,主にオーストラリア南東部から放出され,対流圏下層を通って南極氷床域に広がった.氷床上では氷床表面に接するように対流圏下層を通って昭和基地まで到達した.南極海から南極氷床上への輸送は,オーストラリア南方で発生した低気圧と,その東側にあって南極氷床上にまで伸びるリッジの間に形成された極向きの流れにより行われた.その直後に,南極海から氷床上に広がるリッジが2度にわたり形成され,それに伴う流れがラドンを南極氷床海岸域から内陸へ輸送した.内陸に輸送されたラドンは,リッジから切離した高気圧域内で氷床上に停滞した後,カタバ風循環によって氷床上から昭和基地付近へ輸送されたと考えられた.また,オーストラリアから昭和基地へのもう一つの経路として,比較的速い流れのある対流圏中上層を通ることによって,南太平洋,南大西洋を経る東回り輸送があり得ることも示唆された. Atmospheric radon (Rn) and thoron (Tn) measurement was carried out at Syowa station, Antarctica in the 2005 wintering season by JARE-46. The half life of Rn is 3.8 days and that of Tn is 55 seconds. This paper attempts to extract some cases in which the atmosphere contains a distant place originated Rn, based upon the vertical distribution of Rn and Tn. The origins of Rn in the extracted cases were specified by comparison with a global atmospheric radon transport model. While South America was the most common and frequent contributor among continents over all, the Australian continent was the major contributor in one case. The latter half of this paper examines the transport route and the effective atmospheric circulation of the Australian Rn to Syowa Station.