サーミの音楽を現代に生かす試み : フィンランドにおけるサーミのヨイクを例に

本稿ではフィンランドのサーミのアーティストを例に、現在のアーティストが制作する楽曲の歌詞からサーミの文化的な世界観を検討し、現代におけるサーミ音楽の位置づけを中心的に考察した。サーミはノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアのコラ半島に分布する先住民族のことであり、マイノリティの立場に置かれている人々である。 彼らの言語であるサーミ語はウラル語族フィン・ウゴル語派に属し、フィンランド語、エストニア語などの系統と近い。サーミ語は現在、9のサーミ諸語に区分されているものの、地域により差が大きいため、相互理解が不可能な場合がある。研究対象であるフィンランドにおいては北サーミNorth Sámi...

Full description

Bibliographic Details
Main Author: 松村 麻由
Format: Report
Language:Japanese
Published: 国立音楽大学大学院 2020
Subjects:
Online Access:https://kunion.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=2216
http://id.nii.ac.jp/1520/00002208/
Description
Summary:本稿ではフィンランドのサーミのアーティストを例に、現在のアーティストが制作する楽曲の歌詞からサーミの文化的な世界観を検討し、現代におけるサーミ音楽の位置づけを中心的に考察した。サーミはノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアのコラ半島に分布する先住民族のことであり、マイノリティの立場に置かれている人々である。 彼らの言語であるサーミ語はウラル語族フィン・ウゴル語派に属し、フィンランド語、エストニア語などの系統と近い。サーミ語は現在、9のサーミ諸語に区分されているものの、地域により差が大きいため、相互理解が不可能な場合がある。研究対象であるフィンランドにおいては北サーミNorth Sámi、イナリ・サーミInari Sámi、スコルト・サーミSkolt Sámiの3つのサーミのグループが存在する。北サーミ語はサーミ語のなかで最も多く話されている言語である一方で、イナリ・サーミ、スコルト・サーミの話者は非常に少ない。サーミ諸語は国境で分かれているのではなく、河川や湖の共同体など、生活様式が境界に反映され、言語の他にも、服飾などの伝統文化や音楽も異なっている。本稿ではヨイクのアーティストである、Ulla Pirttijärvi&Uldaの2枚のアルバムからそれぞれ2曲ずつ選択した。サーミの音楽であるヨイクは伝統的に、自然や動物、人物について描写している。現在もこれらを描写していることは変わらず、アルバム全体を通してサーミを取り巻く自然環境や文化を表現している。歌詞やアルバムを検討したことで、現代のアーティストはヨイクを通してサーミの文化を振り返ったり(過去)、未来へのメッセージ(現在~未来)を、歌詞を通して発信したりしていることから、自然や動物の他に「時」が、ヨイクを含むサーミ音楽おける主要なテーマになっていることが読み取れた。このことから、もとは一対一の近い関係で行われていたヨイクは、情景などの描写をするだけでなく、サーミ内外に対し強いメッセージ性をもつようになったことが考えられる。アルバム全体を通して、歌詞からはヨイクに特徴的な音語だけでなく、歌詞(単語)も並置されたもの、さらには文章として成立しているものなど、複数のタイプが見られた。音語がサーミ独自の音響を生みだし、歌詞の世界観と合わせ、結果的に「サーミらしさ」が醸成されているといえる。音楽活動は、サーミ語の言語教育にも反映されていることが推察される。今後は、音楽活動が言語教育にどのように反映されているのかに加え、フィンランドの3つのサーミのグループにおける音楽活動や歌詞、音楽活動の推移を課題とする。