Subsurface warming process associated with Pacific Summer Water transport north of the Chukchi shelf in the Arctic Ocean [an abstract of entire text]

北極海では、特に太平洋側の海氷減少が著しく、太平洋夏季水(Pacific Summer Water : 以下PSW)による熱輸送量の増加が、この海氷減少を促進していることが先行研究から示唆されている (Shimada et al., 2006) 。Timmermans et al. (2018) では、太平洋側北極海のカナダ海盆において1987-2017 年の30 年間で亜表層貯熱量が約2 倍に増加したことが示唆された。しかしPSW による熱輸送量の変化が、どの程度太平洋側北極海の海氷減少に寄与しているかについては、はっきりとわかっていない。本論文で対象としているチュクチ海には、ベーリング海峡...

Full description

Bibliographic Details
Main Author: 村松, 美幌
Other Authors: 綿貫, 豊, 笠井, 亮秀, 上野, 洋路, 渡邉, 英嗣
Format: Doctoral or Postdoctoral Thesis
Language:Japanese
Published: Hokkaido University
Subjects:
660
Online Access:http://hdl.handle.net/2115/89837
Description
Summary:北極海では、特に太平洋側の海氷減少が著しく、太平洋夏季水(Pacific Summer Water : 以下PSW)による熱輸送量の増加が、この海氷減少を促進していることが先行研究から示唆されている (Shimada et al., 2006) 。Timmermans et al. (2018) では、太平洋側北極海のカナダ海盆において1987-2017 年の30 年間で亜表層貯熱量が約2 倍に増加したことが示唆された。しかしPSW による熱輸送量の変化が、どの程度太平洋側北極海の海氷減少に寄与しているかについては、はっきりとわかっていない。本論文で対象としているチュクチ海には、ベーリング海峡を通じて北向きに太平洋起源水が流入しており、近年では、この流量増加に伴って熱輸送量も増加している(Woodgate etal., 2012; 2018)。ベーリング海峡から流入した太平洋起源水の多くはチュクチ海を北上した後、チュクチ海北東部のBarrow Canyon に到達する(Itoh et al., 2013)。しかし、太平洋起源水がBarrow Canyon を通過後、どのように北極海の海盆域に輸送されるのかは未だ詳しく明らかになっておらず、重要な研究テーマの1 つである。例えばCorlett and Pickart(2017) では、船舶観測データを用いて、チュクチ海北東部の陸棚外縁に沿って西向きに流れるChukchi Slope Current の存在と、この流れによる太平洋起源水の輸送が提唱された。またLin et al. (2021) では、その下流域に位置するChukchi Borderland の南側で3 方向に流路が分かれ、その一部がChukchi Borderland を北上することが示された。本論文の第2 章では、チュクチ海北東部の陸棚外縁上(73°N/160-161°W)のHSN (期間1:2003-2005)・NHC (期間2:2015-2019) にそれぞれ海洋研究開発機構(JAMSTEC)が設置した係留系で観測されたデータを解析し、2000 年代と2010 年代の異なる2 期間におけるPSW の変質とChukchi Slope Current の流速変化を調べた。また、同時期にBarrowCanyon に設置された係留系の水温・塩分と比較することで、Barrow Canyon からの輸送過程におけるPSW の変質を定量化し、この2 期間における移流時間の変化とPSW の変質との関係を明らかにすることを目的として研究を行った。解析の結果から、期間1・期間2 ともに、PSW が存在していた期間(PSW-term)は北西向きの流れが卓越することを示した。平均流の向きを流軸としたPSW-term における流速は期間1 より期間2 の方が大きかった。またHSN・NHC とBarrow Canyon の水温時系列に対してラグ相関を計算したところ、深度30-60 m において、ラグが7-61 日の時に相関係数が極大を示した。このことからBarrow Canyon を通過したPSW がHSN・NHC 地点に到達するまでの移流時間は7-61 日程度であることを明らかにした。さらにBarrow Canyon を通過したPSWのチュクチ海北東部陸棚外縁に沿った輸送過程での変質を調べるため、HSN・NHC とBarrow Canyon 係留地点BC-C のPSW-term で平均した水温・塩分を比較した。その結果に基づいて、期間1・期間2 ともにPSW が陸棚外縁に沿って輸送される間に、低温化・低塩分化していることを明らかにした。また、その低温化・低塩分化は期間2 の方が顕著であった。その要因を調べるために、PSW-term における密度成層の強度とChukchi Slope Current の鉛直シアーを両期間で比較したところ、期間2の方が成層が弱く、かつ鉛直シアーが大きいことで、鉛直混合が起こりやすい状況にあった。鉛直シアーについてはChukchi Slope Current が強まったことを反映していると考えられる。以上の結果と、この海域では表層に低温・低塩分水が存在することを考え合わせると、期間2 ではChukchi Slope Current が強化されたことで鉛直混合が強くなり、表層の低温・低塩分水とPSW がよく混合したために、より大きな低温化・低塩分化が生じたと示唆される。第3 章では、チュクチ海北方域のChukchi Borderland において、亜表層貯熱量の長期変動とその要因に焦点を当てた。Chukchi Borderland は、第2 章のHSN・NHC に到達したChukchi Slope Current の下流域と推定されている海域である。1999-2020 年の20 ...