Variations in the terminus position, ice velocity and surface elevation of the Langhovde Glacier, East Antarctica
南極氷床は、内陸の氷と比較して流動速度が大きい「溢流氷河」の末端から多くの氷を海洋に排出している。近年の人工衛星を用いた観測技術の進歩に伴い、南極氷床に存在する溢流氷河の変動を、広範囲かつ高時間分解能で観測することが可能になった。これらにより、南極のいくつかの溢流氷河において、その流動速度や表面標高が数年の時間スケールで急激に変化していることが明らかになった。しかし、この近年の著しい流動変化のメカニズムや原因は未だ解明されていない。これらを明らかにすべく、西南極の溢流氷河においては、人工衛星観測や現地観測による研究が行われている。これに対して、東南極沿岸部の氷床変動については、人工衛星観測によ...
Main Author: | |
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Other Authors: | , , , , |
Format: | Other/Unknown Material |
Language: | English |
Published: |
Hokkaido University
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Subjects: | |
Online Access: | http://hdl.handle.net/2115/55439 https://doi.org/10.14943/doctoral.k11345 |
Summary: | 南極氷床は、内陸の氷と比較して流動速度が大きい「溢流氷河」の末端から多くの氷を海洋に排出している。近年の人工衛星を用いた観測技術の進歩に伴い、南極氷床に存在する溢流氷河の変動を、広範囲かつ高時間分解能で観測することが可能になった。これらにより、南極のいくつかの溢流氷河において、その流動速度や表面標高が数年の時間スケールで急激に変化していることが明らかになった。しかし、この近年の著しい流動変化のメカニズムや原因は未だ解明されていない。これらを明らかにすべく、西南極の溢流氷河においては、人工衛星観測や現地観測による研究が行われている。これに対して、東南極沿岸部の氷床変動については、人工衛星観測による広域的な研究が行われているものの、詳細な研究観測はあまり行われていない。そこで、本研究では東南極・宗谷海岸に位置するラングホブデ氷河(69o11’S, 39o32’E)に注目した。現地観測では、熱水掘削による掘削孔観測や、氷河表面での観測によって氷河の接地や氷厚を把握した。これに加えて人工衛星画像解析を用いて過去10年間の氷河変動を精密に追跡することにより、溢流氷河の変動メカニズムを解明することを目指した。2011年11月から2012年3月にかけて第53次日本南極地域観測隊に参加し、ラングホブデ氷河での野外観測を行った。氷河末端から2.7および3.2 km 上流の2地点において、低温科学研究所にて開発した熱水掘削装置を用いて氷河全層掘削を行った。水中カメラやCTD(conductivity temperature depth pro-filer)を用いた掘削孔内および氷河底の観測や、氷河底に設置した水圧計による掘削孔水位の変動を測定した。これらの測定の結果、厚さ398–412 m の氷河底面に厚さ24–10 m の海水層が存在していることが明らかになった。また、掘削孔水位は潮汐変動を示しており、海水層が外洋とつながっていることが判明した。このほか氷河表面においては、GPSを用いた流動速度・表面標高の測定および、アイスレーダーを用いた氷厚測定を行った。GPSを氷河上4地点に設置して氷河流動を精密に測定したところ、末端付近の2地点においては、鉛直変位量に潮汐変動が見られたが、掘削孔近傍においては明瞭な変化は見られなかった。さらに、氷河上455地点の表面標高と85地点の氷厚測定を行った。氷厚測定によって得られた氷河底面標高と、静水圧平衡を仮定して表面標高から推定される氷河底面標高の比較を行った。末端付近では両者がほぼ一致したが、掘削孔近傍では一致せず、静水圧平衡が成立していないことが明らかになった。氷河底に海水層が存在していたにも関わらず、潮汐に起因した氷の鉛直変位が無く、静水圧平衡にない状態が観測された。このことは、接地線付近には複雑な地形や力学が存在しており、接地線が単純な構造ではないことを示唆するものである。次に、人工衛星画像を用いて氷河変動履歴を解析した。2000–2012年にかけて撮影されたASTER画像およびETM+画像を用いて、ラングホブデ氷河の末端位置を測定した。また、氷河末端部6 km 四方においてASTER画像に画像相関法を適用し、2003–2012年の流動速度を解析した。さらに、2006–2010年に撮影されたPRISMの画像をデジタル図化機でステレオ実体視し、表面標高を測定した。以上の解析の結果、2000–2007年における末端変動は130 m 以内であり、大きな変動は見られなかった。しかしその後、2008–2011年の3年間で氷河末端は330 m 前進しており、2012年においても前進傾向であることが示された。2003–2007年にはわずかに減少傾向にあった流動速度は、2007–2010年に平均10%加速しており、末端位置の前進と同期した流動速度の上昇が明らかになった。2006–2010年における表面標高の変化量は2.6 m 以下と有意な変動は認められなかった。上記の解析で明らかになった氷河変動の原因を探るため、末端位置と流動速度の変化から、氷河末端でのカービング(氷山分離)速度を計算した。2003–2007年は平均93 m a−1 であったが、2008–2011年は平均16 m a−1 ... |
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