南極氷床における積雪特性からみた雪氷環境とその変動

南極氷床はその地理的な位置によっても特有な気候・気象条件のもとにあり、氷床表面に年々降り積もる雪の大半は溶けることもなく、数十万年のオーダーで蓄積され氷床を形作ってきた。この広大な南極氷床に関する科学的観測調査研究も進み、多くの知見が得られ、南極氷床の気候学的・雪氷学的特徴も理解されるようになってきたが、個々の過程においてはいまだ未解明な部分も多い。 日本南極地域観測隊は1957年に昭和基地を建設して以来、基地周辺から氷床内陸域にいたるまで、精力的な調査研究を行ってきた。特に雪氷観測計画に関連しては1968年~1969年の昭和基地 - 南極点旅行、1969年~1975年のみずほ高原・エンダービ...

Full description

Bibliographic Details
Main Authors: 佐藤 和秀, サトウ カズヒデ, Kazuhide SATOW
Format: Thesis
Language:Japanese
Published: 2000
Subjects:
Online Access:https://ir.soken.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=810
http://id.nii.ac.jp/1013/00000810/
Description
Summary:南極氷床はその地理的な位置によっても特有な気候・気象条件のもとにあり、氷床表面に年々降り積もる雪の大半は溶けることもなく、数十万年のオーダーで蓄積され氷床を形作ってきた。この広大な南極氷床に関する科学的観測調査研究も進み、多くの知見が得られ、南極氷床の気候学的・雪氷学的特徴も理解されるようになってきたが、個々の過程においてはいまだ未解明な部分も多い。 日本南極地域観測隊は1957年に昭和基地を建設して以来、基地周辺から氷床内陸域にいたるまで、精力的な調査研究を行ってきた。特に雪氷観測計画に関連しては1968年~1969年の昭和基地 - 南極点旅行、1969年~1975年のみずほ高原・エンダービーランド雪氷観測計画、1979年~1982年の極域気水圏観測計画(POLEX-south)および1982年~1988年の東クィーンモードランド研究計画などが行われてきた。また内陸旅行中の浅層雪氷コア掘削やみずほ基地での700m深雪氷コア掘削なども実施された。 本研究は、これらの長期にわたって実施されて得られたEast Dronning Maud Landにおける観測データ、特に南極氷床の堆積環境として非常に重要な積雪特性である10m雪温、積雪量、積雪の酸素同位体組成の観測データを集約し、その広域空間分布および経年変動特性などの全体構造を解析した。また現在のこうした雪氷環境が過去にも適用できると仮定して、日本南極地域観測隊によって掘削して得られた2500m深のドームふじ深層コアの年代を推定し、その酸素同位体組成プロファイルから氷期 - 間氷期の気温変動特性を解析した。その内容は以下の通りである。 10m深雪温はその場所の年平均気温を示す温度として一般には知られているが、年平均気温が -30℃以下の高所では、氷床表面の地上気温より低温であることを示した。10m雪温と平均気温との差は年平均気温10℃の低下に対し、約1℃の割で増大する。それは氷床内陸域における接地逆転層の強さを反映していることを示した。また標高に対する温度勾配は、標高3000mまでの地域ではほぼ -1.23℃/100mであるが、それ以上の高所(内陸)では -2℃/100m以下にもなり、しかも地域によって違いがあるという地域特性を明らかにした。それは氷床表面の尾根と谷といった大きな表面形態の違いが、地域的な気候形成に影響している可能性を指摘した。 以上の特性をふまえて、East Dronning Maud Land地域の氷床表面温度の空間分布図を作成した。また人工衛星画像から得られた氷床表面の輝度温度と10m雪温との関連を示し、衛星画像データの有用性を述べた。 積雪量については、氷床沿岸域から内陸頂上部にいたる間を解析しその分布特性の詳細を述べた。表面積雪密度について、沿岸域より標高2000mまでは増加し、それより標高が高くなると減少するという地域特性を示し、その密度と積雪深から年間積雪量を求め、その空間的・時間的変動を言及した。1968年から1996年にいたる29年間の年間積雪量の変化は、1968年から1987年までは全体的には緩やかな増加傾向に、それ以降1996年まで減少傾向にあることを明らかにした。さらに積雪量の変化を、表面起伏による要因と気候的要因について解析し、沿岸域ほど気候的要因による寄与が大きく、内陸域ほど表面起伏による要因の寄与が多くなることを見いだした。 積雪の酸素同位体組成については、その組成は一般に水分子の相変化に伴う同位体分別で変化し、その時の温度に密接に関連していると理解されている。氷床表面層での温度分布を想定し、温度勾配下にある積雪実験により降雪が堆積した後の同位体分別による組成の変動傾向を解析した。その結果を基に表面積雪層の酸素同位体組成の変質モデルを提案した。また積雪の酸素同位体組成の季節変動、標高との関係、空間分布特性および浅層雪氷コアの酸素同位体組成の深さ方向のプロファイルから、約5年の卓越周期を持つ変動特性なども見いだした。さらに平均酸素同位体組成と標高、年平均気温や接地逆転層温度とが直線関係にあること、および酸素同位体組成と積雪量との関係を導いた。 このような現在の積雪特性を持つ雪氷環境が過去にも適用できるという仮定のもとに、2500m深のドームふじ深層コアの酸素同位体組成プロファイルから積雪量変化、さらに定常流勤(鉛直歪み)モデルから圧密年層厚を求め、ドームふじ深層コアの年代を推定した。さらに酸素同位体組成と年平均気温との関係を用いて、過去の気温変動を復元した。この過去33万年におよぶ気温変動から、スペクトル解析により氷期 - 間氷期サイクルを説明すると言われるミランコヴィッチの天文学説の周期に近い卓越周期を検出した。 ...