サハリン先住民ウイルタの文学(1)

本稿ではサハリンの先住民族ウイルタの、特にウイルタ語による《文学》と、その変化についての初歩的な考察を試みる。ウイルタ語に固有の文字はなく、昔話やおとぎ話、歌謡などは従来、口頭で伝承された。このような口承文芸をウイルタの「伝統文学」と呼ぶ。初めての教科書発行により書き言葉が成立した2008 年以降にウイルタ語の母語話者が主力(またはその一部)となってウイルタ語を書き表した出版物は、2023 年12 月現在、筆者が確認できただけでも17 件ある。そのなかには、話者がウイルタ語で創作した作品を含むものや、他言語からウイルタ語に翻訳した作品がみられる。このような創作や翻訳作品は、ウイルタ語を文字で書...

Full description

Bibliographic Details
Main Authors: 山田, 祥子, YAMADA, Yoshiko, ヤマダ, ヨシコ
Format: Other/Unknown Material
Language:Japanese
Published: 北海道言語研究会 2024
Subjects:
Online Access:https://muroran-it.repo.nii.ac.jp/record/2000214/files/06.pdf
http://hdl.handle.net/10258/0002000214
https://muroran-it.repo.nii.ac.jp/records/2000214
Description
Summary:本稿ではサハリンの先住民族ウイルタの、特にウイルタ語による《文学》と、その変化についての初歩的な考察を試みる。ウイルタ語に固有の文字はなく、昔話やおとぎ話、歌謡などは従来、口頭で伝承された。このような口承文芸をウイルタの「伝統文学」と呼ぶ。初めての教科書発行により書き言葉が成立した2008 年以降にウイルタ語の母語話者が主力(またはその一部)となってウイルタ語を書き表した出版物は、2023 年12 月現在、筆者が確認できただけでも17 件ある。そのなかには、話者がウイルタ語で創作した作品を含むものや、他言語からウイルタ語に翻訳した作品がみられる。このような創作や翻訳作品は、ウイルタ語を文字で書いて生み出されている点で、語られる「伝統文学」とは区別される。2008 年以降の創作や翻訳作品のなかにウイルタの「新しい文学」の萌芽を認めるかどうか、多角的かつ長期的な視点での考察を要する。現在ウイルタ語を母語とする話者は10 名に満たず、この言語は消滅の危機に瀕しているとされる。だが、ただ消滅を待つのでなく、伝統文学を再評価して広く紹介したり、書き言葉を成立させてウイルタ語の出版物を次々と出し、若い世代の学習機会を増やしたりして、この言語を後世に伝え残そうとしていることにも注目したい。 journal article