Summary: | 北見工業大学 博士(工学) 電波, 音声や画像信号などに関して多センサを配備して空間信号処理を行うセンサーアレイ信号処理は, 移動通信, 情報ネットワーク, レーダー, 電波天文, 水中音響, など, 多様な分野に応用される基本技術である. センサーアレイ信号処理においては, 信号到来方向推定(DOA) と信号数の検出の2つが主な課題であり, 特に前者は後者の問題にも関わる重要課題である. これまで, 信号到来方向推定に関し, MUSIC法,ESPERIT法, 確定最大尤度法(DML), 確率最大尤度法(SML), WSF法, Bayesian 法など様々な手法が提案さている. なかでも SML は観測状況が悪い時でも高い解像度が得られるという特徴がある. 一方, 従来のSML は推定した信号共分散行列の非負性を保障することができず,以下の問題が指摘されている. 1. 得られた解に曖昧さを含み,信号到来方向を正しく推定できない場合がある. 2. 尤度関数を正しく計算できない場合があり, 他の尤度法(たとえば,信号数検出時の最小記述長度法, すなわちMDL法)に応用できない. 本研究では推定した信号共分散行列の非負性を確保する確率最大尤度の厳密な定式化を提案した. 本定式化による SML は前述の2つの欠点を解消するだけでなく, 他の様々な SML 近似解法の推定精度を評価する標準手法をして利用できるという意義がある. 提案した厳密なSMLを解く場合, 固有値分解を用いるため, 一般に計算コストが高くなるという問題がある. 計算コストと解の厳密性は一般にトレードオフの関係にあるが, 本研究では解の厳密性を出来るだけ損なわずに,計算コストを軽減するために, 以下のような3種類の求解アルゴリズムを開発した. まず, DML推定値を初期値に用い, 局所探索を行うことで, 準最適解を求めるという効率的な求解アルゴリズムを開発した. また多角的なシミュレーション実験により, 本求解アルゴリズムは実用上,十分な精度で厳密解と同等の結果を得られることを実証した. 次に計算コストをさらに軽減する手法として, 上記で得られた局所探索法にベースして, 交互最小化(AM)手法を用いたアルゴリズム (EAM) を開発した. さらに計算時の数値不安定性の解消のために, 等間隔直線センサーアレイを用いた EAM の既約形も提案した. 以上, 本研究では信号到来方向推定に関し, 観測状況が悪い時でも高い解像度が得られるという特徴がある確率最大尤度法に対し, 信号共分散行列の非負性を確保する確率最大尤度の厳密な定式化を提案し, さらに計算コストを軽減する効率的な求解アルゴリズムを3種類提案し, その有効性および特徴をシミュレーション実験により示した. doctoral thesis
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