DNA解析ならびに核型分析によるケープペンギンの多様性と特徴付けに関する研究

ペンギンは鳥網ペンギン目ペンギン科に属する海鳥で、6属18種が知られている。そのうち国内には、コウテイペンギン属、アデリーペンギン属、コガタペンギン属、フンボルトペンギン属、マカロニペンギン属の5属11種が飼育されている。南アフリカ沿岸海域に生息するフンボルトペンギン属のケープペンギン(Spheniscus demersus)は、野生下で個体数が特に激減しており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて絶滅危惧IB類に指定されている。一方で、日本はペンギンの飼育・繁殖に関して高い技術を持ち、中でもケープペンギンの国内飼育数は年々増加している。今後も長期的に個体数を維持し、飼育を続けて...

Full description

Bibliographic Details
Main Authors: 村田 倫子, Murata Michiko
Format: Thesis
Language:Japanese
Published: 2014
Subjects:
Online Access:https://az.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=3946
http://id.nii.ac.jp/1112/00003925/
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Description
Summary:ペンギンは鳥網ペンギン目ペンギン科に属する海鳥で、6属18種が知られている。そのうち国内には、コウテイペンギン属、アデリーペンギン属、コガタペンギン属、フンボルトペンギン属、マカロニペンギン属の5属11種が飼育されている。南アフリカ沿岸海域に生息するフンボルトペンギン属のケープペンギン(Spheniscus demersus)は、野生下で個体数が特に激減しており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて絶滅危惧IB類に指定されている。一方で、日本はペンギンの飼育・繁殖に関して高い技術を持ち、中でもケープペンギンの国内飼育数は年々増加している。今後も長期的に個体数を維持し、飼育を続けていく上で、近親交配を避け、血縁関係を最小とする遺伝的管理が必要である。しかし、野生から導入された日本の飼育個体群のファウンダーの起源は不明である。また、これまでに野生のケープペンギンの遺伝的データは報告されていない。 そこで本研究ではまず、ミトコンドリア由来のDNA(mtDNA)、核ゲノム由来のマイクロサテライトDNAマーカーを用いて国内飼育ケープペンギンの系統関係や遺伝的多様性を調べた(第1、2章)。続いて、ペンギン科におけるケープペンギンの分子系統的位置付けを明らかにするため、ケープペンギンに特異的なDNAマーカーを探索した(第3章)。また、これまで詳細が報告されていないケープペンギンの核型分析を行い染色体レベルでの特徴も調べた(第4章)。【第1章】国内飼育されているケープペンギンのmtDNA多型解析 ケープペンギンは1935年に初めて国内に導入されて以来、2011年には87ファウンダーの485羽が飼育されている。本研究ではそのうち全国の動物園・水族館から提供された62ファウンダーの236個体のサンプルを用い、1)mtDNAのコントロール領域および2)チトクロームb領域の塩基配列を分析し、多型解析を行った。1)コントロール領域の解析 mtDNAコントロール領域の433塩基対(bp)を決定した結果、39箇所に多型部位が観察され、これらの変異に基づき30ハプロタイプに分けられた。NJ法による系統樹では、cladeAとBの大きく2つに分けられ、特にcladeBは94%と高いbootstrap値で支持された。30ハプロタイプのうちcladeAには26ハプロタイプ、cladeBには4ハプロタイプが含まれた。cladeA内の遺伝距離は0.9%、B内は1.2%だったのに対し、2つのclade間の遺伝距離は3.4%であった。野生のイワトビペンギン属の種間の遺伝距離は6.1%、コガタペンギンの亜種間では1.0%であることを考慮すると、今回得られた国内ケープペンギンの2つのグループ(cladeAとB)は、野生のケープペンギンの生息地域差、またはこれまで知られていない亜種による違いを反映しているのかもしれない。2)チトクロームb領域の解析 チトクロームb遺伝子領域1140bpでは11箇所の多型部位が観察され、8ハプロタイプに分けられた。これらのハプロタイプを用いたNJ法による系統樹では、コントロール領域の解析結果と一致してcladeA(6ハプロタイプ)とB(2ハプロタイプ)の2つのグループに分けられた。 このようにコントロール領域および遺伝子領域であるチトクロームb領域の多型解析から、国内ケープペンギンには少なくとも大きく2つの異なる母系系統が存在することが明らかになった。【第2章】国内飼育されているケープペンギンのマイクロサテライトDNAマーカーを用いた集団解析 フンボルトペンギン用の既知の3座位(Sh1Ca12、Sh1Ca16、Sh2Ca21)、ケープペンギン用の既知の5座位(PNN01、PNN03、PNN06、PNN09、PNN12)の計8座位のマイクロサテライトDNAマーカーを用いて、国内飼育されている58ファウンダー由来の178羽のケープペンギンの集団解析を行なった。Cervus ver3.0を用いて、ヘテロ接合体率の期待値(He)と観察値(Ho)、ハーディ・ワインベルグ(HWE)平衡からの逸脱の有無を算出し、GENEPOP 4.2を用いて、各座位間の連鎖不平衡の有無について検討した。その結果、HWE平衡からの逸脱や連鎖不平衡は見られず、これらDNAマーカーの有用性が示された。Heは0.45~0.72(平均0.60)、Hoは0.45~0.71(平均0.62)であった。調べたマーカーは異なるものの、ケープペンギンと同様に絶滅危惧種である野生のキガシラペンギンのHo値が0.30~0.45であることを考えると、本研究のケープペンギンの遺伝的多様性は低くないと考えられた。今後はケープペンギンの野生個体群との比較が必要である。コンピュータープログラムSTRUCTURE2.3.4を用いて個体の遺伝子型情報から分集団数を推定した結果、国内飼育のケープペンギンは大きく3つの祖先集団に由来することがわかった。今後多様性を維持するために、同じ祖先集団に由来する個体同士のみで繁殖に供しないなどの配慮が必要であると考えられた。【第3章】ケープペンギンに特異的なDNA配列の探索ケープペンギンに特異的なDNA配列を探索するために、以下の4つの手法を用いた。1)制限酵素切断によるサテライトDNAの検出法 ケープペンギンゲノムDNAを87種類の制限酵素で処理し、そのうちBmeT110Ⅰ処理により得られた唯一のサテライトバンドである190bpのDNA配列を決定した。決定配列を基に新規にプライマーを設定し、PCRを行った。結果、ケープペンギンに特異的な配列ではなく、ペンギン科のペンギンに共通した配列であることがわかった。次に、この配列の各ペンギンのゲノム中における存在様式をサザンハイブリダイゼーションで調べたところ、ケープペンギンは、同じフンボルトペンギン属であるフンボルトペンギンやマゼランペンギンとは同じ存在パターンを示したが、アデリーペンギン属やコウテイペンギン属のペンギンとは異なるDNAパターンであった。2)Random Amplified Polymorphic DNA(RAPD)-PCR法 10~13塩基からなる任意の配列をプライマーとするRAPD-PCR法を行ない、ケープペンギンに特徴的と思われる約780bpのバンドを得た。この配列をクローニングしDNA配列を決定した(776bp)。この配列の存在をPCRで調べたところ、ペンギン科に共通するDNA配列であることがわかった。3)Mini/Microsatellite-Associated Sequence Amplification(MASA)法 ミニおよびマイクロサテライトDNAのコア配列をプライマーとするMASA法を行ない、ケープペンギンに特徴的と思われる約550bpのバンドを得た。このバンドをクローニングしDNA配列を決定した(540bp)。この配列の存在をPCRで調べたところ、ケープペンギンを含むフンボルトペンギン属とマカロニペンギン属のペンギンにおいて目的のバンドが得られた。一方で、その他の属のペンギンでもバンドは得られたが、目的のサイズとは異なっていた。4)Representational Difference Analysis(RDA)法 2種類のゲノムDNAの一部をPCR増幅し、それらの増幅産物(アンプリコン)をハイブリダイゼーション法を用いて引き算し、差異を検出するRDA法を行なった。ケープペンギンのアンプリコンから同属異種であるフンボルトペンギンのアンプリコンを相互に引き算した場合、特異的な配列は得られなかった。そこで、ケープペンギンとは属の異なるジェンツーペンギンのアンプリコンと引き算したところ、380bpのDNA断片を得た。このDNA断片の存在をPCRで調べたところ、この配列はケープペンギンDNAだけでなくフンボルトペンギン(フンボルトペンギン属)、さらにはマカロニペンギン属にも共通する配列であった。 上記の4種類の方法を用いてケープペンギンのDNAの特徴付けを試みた結果、ケープペンギンにのみ特異的なDNA断片は得ることができなかったが、ケープペンギンを含むフンボルトペンギン属とマカロニペンギン属の2属にのみ共通の2種類のDNA断片が得られた。これは、フンボルトペンギン属内のケープペンギン、マゼランペンギン、フンボルトペンギンはそれぞれゲノム上ではあまり違いがないことを反映しているのかもしれない。【第4章】ケープペンギンの核型分析 ケープペンギンの白血球を培養し、空気乾燥法により染色体中期標本を作製した。得られた染色体像をギムザ染色及び蛍光染色し、核型分析を行なった。30個の染色体中期標本を観察し、ケープペンギンの染色体は、少なくとも明確な7対のマクロ染色体と1対の性染色体があり、さらに30対のマイクロ染色体を含んだ計76本(2n=76)であると推定された。ケープペンギンと同属のマゼランペンギンの染色体数は68本、フンボルトペンギンは78本と報告されており、今回のケープペンギンとは異なっていた。マクロ染色体は7対で一致していることから、フンボルトペンギン属内のペンギンによる染色体数の違いはマイクロ染色体の数の違いによると考えられた。 以上、本研究による国内ケープペンギンの一連のDNA分析を通して、mtDNA多型解析では2つの母系系統、マイクロサテライトDNAマーカーを用いた集団解析では3つの祖先集団に由来することが明らかとなり、国内のケープペンギンは遺伝的に複数の起源をもち、多様性があることが示された。本研究で得られたデータは、今後のケープペンギンの遺伝的管理に向けた基礎的データとなり得るであろう。ケープペンギンに特異的なDNA配列の探索では、ケープペンギンにのみ特異的なDNA断片の存在を確認することはできなかった。一方でフンボルトペンギン属に共通するDNA断片は検出され、フンボルトペンギン属内のペンギンのゲノムDNAには大きな違いがない可能性が考えられた。また、ケープペンギンの核型分析では2n=76であると推定され、染色体レベルでの特徴が初めて示された。 The African penguin (Spheniscus demersus), which is endemic to southern Africa, is one of the world's most endangered seabirds. While wild African penguin populations continue to decrease, properly maintained captive populations are steadily increasing each year. To avoid close inbreeding and to maintain genetic diversity, the Japanese Association of Zoos and Aquariums keeps studbooks, which it uses to promote long-term breeding plans. However, genetic data have not been collected on either wild or captive African penguins in Japan to date.This study addresses the genetic characterization of captive African penguins in Japan, and is organized into four chapters. The first and second chapters describe the genetic diversity and phylogenetic relationships among African penguins based on mitochondrial and microsatellite DNA. The third chapter characterizes DNA markers isolated from African penguins. The fourth chapter includes an analysis of the karyotype and nucleolus organizer region of the African penguin. Chapter 1 Mitochondrial DNA analysis of captive African penguins in Japan According to the 2011 Japanese regional studbook for the African penguin, they were first introduced to Japan in 1935, and 156 additional founders were introduced from 1973 to 2011. The captive African penguin populations in Japan comprise 485 individuals belonging to an estimated 87 different founder lineages. In this study, 236 African penguin samples derived from 62 founder lineages were analyzed based on two mitochondrial DNA (mtDNA) regions. 1) Analysis of the control region Multiple sequence alignments of the 433-bp partial control region showed 39 polymorphic sites and a total of 30 distinct haplotypes. Neighbor-joining (NJ) phylogenetic analysis using the sequences revealed that the captive African penguins clustered into two clades (A and B) supported by high bootstrap values. The divergence between African penguin clades A and B (d = 3.39%) observed in the present study may reflect geographical isolation, the existence of undefined subspecies, or both, although it must be noted that our data focused on captive-bred individuals.2) Analysis of the cytochrome b gene The complete 1140-bp sequence of the cytochrome b gene was obtained from 54 captive African penguins in Japan. We detected 8 haplotypes defined by 11 variable sites. NJ phylogenetic analysis using the cytochrome b sequences identified two clades similar to those observed using the control region. These mtDNA analyses suggest that captive African penguins in Japan are derived from two distinct maternal lines.Chapter 2 Genetic population structure of captive African penguins in Japan based on microsatellite DNA analysis Eight microsatellite loci (Sh1Ca12, Sh1Ca16, Sh2Ca21, PNN01, PNN03, PNN06, PNN09, and PNN12) were examined to estimate the genetic variability and relationships among 178 captive African penguins derived from 58 founder lineages. Deviation from Hardy–Weinberg equilibrium and linkage disequilibrium were not observed for any of the markers. Mean HE (expected heterozygosity) and HO (observed heterozygosity) values ranged from 0.45 to 0.72 and from 0.45 to 0.71, respectively. These heterozygosity values for captive African penguins were higher than those of a previously described wild population of yellow-eyed penguins (Megadyptes antipodes). A Bayesian clustering method was used to characterize genetic differentiation among populations, and three subpopulations of captive African penguins were inferred.Chapter 3 Isolation and characterization of novel DNA markers from the African penguin Four methods were used to isolate genetic markers specific to the African penguin.1) Isolation of a satellite DNA fragmentA 190-bp satellite DNA fragment (a type of repetitive DNA) was isolated by digesting African penguin genomic DNA with the resection enzyme BmeT110. PCR analysis with newly designed primers based on the sequence showed that the repetitive DNA sequence was shared among spheniscid species. Southern blot hybridization analysis was performed using the satellite DNA fragment as a probe. Hybridization with genomic DNA from the African penguin, Magellanic penguin, and Humboldt penguin, which all belong to genus Spheniscus, generated ladder signals of tandem repeats, whereas non-tandem repetitive signals were found in genera Pygoscelis and Aptenodytes.2) DNA markers obtained by randomly amplified polymorphic DNA Randomly amplified polymorphic DNA PCR techniques were used to identify a 778-bp band that differentiates the African penguin from the Humboldt penguin in addition to several common bands. Cloning and sequence analysis of the unique band and band-specific PCR analysis showed that the fragment was common to spheniscid species.3) DNA markers obtained by mini/microsatellite-associated sequence amplification analysis Mini/microsatellite-associated sequence amplification (MASA) techniques were used to generate a prominent 540-bp band that differentiates the African penguin from the Humboldt penguin. Cloning and sequence analysis of the unique band, and subsequent band-specific PCR analysis showed that this fragment distinguished genera Aptenodytes and Pygoscelis from genera Spheniscus and Eudyptes.4) Representational difference analysis Three series of representational difference analysis were performed using a combination of African penguin amplicons as testers and Gentoo penguin amplicons as drivers. One informative polymorphic marker, present exclusively in Spheniscus and Eudyptes, was obtained. No polymorphic DNA fragments were isolated when amplicons prepared from the Humboldt penguin were subtracted from those prepared from the African penguin.Chapter 4 Karyotype of the African penguin The African penguin karyotype was analyzed. To obtain metaphases, the direct culture technique was used for peripheral blood lymphocytes. The chromosome number of the diploid African penguin was, for the first time, determined to be 76 (2n = 76), where 7 pairs of autosomes and a pair of sex chromosomes were considered macrochromosomes, and the remaining 30 pairs (60 chromosomes) were microchromosomes. According to several previous studies, the diploid chromosomal numbers of the Magellanic penguin and the Humboldt penguin were 68 and 78, respectively. While the number of macrochromosomes was constant among species of genus Spheniscus, the number of microchromosomes varied. Taken together, we demonstrated the existence of two divergent clades of captive African penguins with moderate genetic distance based on mtDNA sequence analyses. Next, we showed three different subpopulations within the African penguin. The population of captive African penguins in Japan was derived from multiple genetic origins, resulting in genetic diversity. Moreover, we isolated DNA markers shared among family Spheniscidae, but did not detect genetic markers specific to the African penguins. This finding suggests that penguin species in Spheniscus, including the African penguin, have a high level of genetic homogeneity. In addition, the African penguin karyotype was determined for the first time. These molecular analyses should be useful to Japanese zoos and aquariums for future management decisions and the implementation of breeding programs. 博士(獣医学) 麻布大学